2022年10月にOKINAWA COFFEE EXPOに取材に行き、ROK Coffee Japanアンバサダーの眞喜志泰斗さんが慕う先輩方にもお話を伺うことができた。
沖縄のコーヒー文化の盛り上がりを肌で感じ、それを支える方々の情熱に触れ、そこには深い信頼関係や互いの尊敬があることを知った。
今回は、眞喜志さんの師匠であり、沖縄のコーヒーシーンを代表するお一人である山田哲史さんについてご紹介したいと思う。
沖縄初日に、山田さんが営むCOFFEE potohotoに伺った際、ROKの者ですと挨拶すると、「泰斗がお世話になって~」と、まるで眞喜志さんの家族のようで、人柄の温かさにすぐにファンになった。
2014年ジャパン・コーヒーロースティング・チャンピオンシップで5位に入賞、コーヒーの品質の評価をすることができるQグレーダーの資格を持つ山田さん。
大変失礼ながら、私は「眞喜志さんがROKで出店やワークショップをするときに使う豆を焙煎している人」という認識しかなく、一からたくさん質問をしてしまったが、嫌な顔一つせず、コーヒーに出会った経緯からはじまり1時間以上も丁寧に話してくださった。
コーヒーそのものだけでなく、コーヒーを一緒に作り上げていく「人」への情熱を感じて、とても楽しい時間だった。
▮COFFEE potohoto 山田哲史さん
山田さんのコーヒーに携わることになったきっかけは2002年頃に沖縄でスペシャルティコーヒーに出会ったこと。
産地によってフルーツの香りがしたり自然な甘みがあったりと、それまで飲んでいたコーヒーのイメージを覆す体験をし、一気にのめりこんだ。
2006年、29歳の時に沖縄県那覇市栄町市場内で自家焙煎コーヒー店 COFFEE potohotoを開業。コーヒーの面白さをたくさんの人に知ってほしいと、お客さんが「体験できること」にこだわってお店をブラッシュアップしてきた。
始めた当初は焙煎機もなく、ステンレスの板を折り曲げた自作の焙煎機を作り実験していたというから驚きだ。きっとそんな数えきれない工夫と努力のもとに、今の山田さんがあるのだと思うと感慨深い。
お店では生豆も見ることができるし、焼き立ての豆でコーヒーを飲んだりコーヒー豆を食べたりする体験もできる。今までコーヒーの奥深さを知らなかったお客さんがCOFFEE potohotoにきたことによって、コーヒーの産地や豆の違いに気づき、驚いたり、感動したりすることが山田さんの原動力の一つになっている。
山田さんは、その違いがわかるように「お客さんをいざなう」ことが役目だと語る。
2008年頃からコーヒー豆の生産にも興味を持ち始め、自身でも栽培するとともに、農園に自ら足を運びたいと考えるようになった。しかしながら、コーヒーの一番の産地である中米に行くにはお店を数週間休まなくてはならず現実的ではないと考えていたところ、たまたまお土産でもらった台湾のコーヒーから台湾にコーヒー農園があると知った。それがきっかけで台湾のコーヒー農園に年に1度通うようになり、その農園の豆を仕入れてお店で振舞ったり、様々なカフェにも提供している。
今では山田さんが焙煎して気づいたことを農園にフィードバックしながら一緒に豆を作り上げていて、沖縄のコーヒーフェスに台湾農園の方々を招待し一緒にコーヒーを振舞うなど、台湾と沖縄をつなぐ活動もしている。
▶昨年11月に3年ぶりに台湾の農園や展示会を訪ねる山田さん(COFFEE potohotoのInstagramより)
▮山田さんの思うコーヒーの魅力
そんな山田さんからコーヒーのお話を伺う中で強く感じるのは「人」が大事だということ。
コーヒー豆を作る人、焙煎する人、淹れる人・・・、人が大きな要素であり、色々な人が関わることがコーヒーの素晴らしい魅力だと語る。
Qグレーダーの資格を持つ山田さんは、コーヒーのクオリティがよくないと感じた時に、豆の鮮度が悪いのか、収穫の際の問題なのか(例えば、地面に落とした豆をいれると土のバクテリアの影響でえぐみが出る)、焙煎の仕方なのか、挽き方なのか、グラインダーの刃の摩耗なのか、お湯の温度なのか・・。テイスティングしただけで、その理由がわかるのだそうだ。(なんという職人技であろう!)
だからこそ、すべての工程とそこに関わるすべての人が大切で、誰一人欠けてもよいコーヒーはできない。すばらしい一杯ができたときは、みんなで喜びを分かち合う。
また、それぞれのパート(生産、焙煎、抽出・・・)でのスペシャリストの丁寧な仕事からくる品質はもちろんのこと、この焙煎士のコーヒーが好きだ、このバリスタに淹れてもらいたい等、関わる人たちの個性が一杯のコーヒーの味わいをもたらすことも大きな魅力である。
「コーヒーには人をつなぎ、人を集められるパワーがあるんだよ」と語る山田さん。
コーヒーってすごいな!と思うと同時に、山田さんの情熱と人柄に人が集まるのだと思った。
<日常の様子>
▶左から眞喜志泰斗さん、山田哲史さん、2022年にスペシャルティコーヒー認定を受けた農園主であり沖縄珈琲生産組合組合長の宮城禎明さん
宮城さんが作ったコーヒー豆を持ってきて、山田さんがその場で何度か条件を変えながらエスプレッソを抽出し、皆でテイスティング。私もテイスティングさせていただき、この日抽出したエスプレッソはウイスキーのような風味がした。「これは行き過ぎだね(ナチュラル精製*の期間)、次の精製はこうしてみよう」といった会話が繰り広げられ、ここで答え合わせをして持ち帰り精製に活かす。生産者と焙煎士の密な連携が素晴らしいコーヒーを生みだすのだと思った。
*精製とは:収穫したコーヒーの実の外側の部分を取り除き、焙煎前の生豆(なままめ)と呼ばれる状態にする工程のこと。
▮山田さんと眞喜志さんの出会いとROK
山田さんと眞喜志さんの関係は、2014年に眞喜志さんがコーヒー好きの友人に連れられてCOFFEE potohotoに訪れたのが始まり。
眞喜志さんはお店に定期的に通うようになり、コーヒーにのめり込んでいった。
そんな中、毎週金曜日、The Coffee Stand店主の上原さん*と3人で、COFFEE potohotoに集まり、“放課後”と名付けられたコーヒーの集いをするようになった。
山田さんが仕入れた豆を、様々な焙煎方法で試し、こっちの方が美味しい、この間の方が美味しかった、などと焙煎や豆について議論し、それぞれがコーヒーを探求する時間だ。
(*The Coffee Standの上原さんについては次回ご紹介します。)
そんなある日、「手動でエスプレッソを淹れられる面白い器具を見つけた!」と眞喜志さんがROKPRESSOを持ってきたという。
当時は初期モデルでうまくエスプレッソを抽出できているレクチャー動画などの情報もない。
眞喜志さんはROKPRESSOを持ってきては、山田さんが焙煎した豆をROKし、もっと圧をかけるためには粉の量を増やした方がいいのではないか、レバーを数回に分けて押してみたらいいのではないか、蒸らしをいれてみよう、などと3人で意見を持ち寄っては様々な抽出方法を試す期間が続いた。
この集いがあったことで、眞喜志さんは電動のエスプレッソマシンと同じクオリティのエスプレッソをROKPRESSOで淹れることができるようになったそうだ。
山田さんが台湾の農園に行く際には眞喜志さんも同行したり、コーヒーフェスに一緒に出店したりと一緒に様々な活動もしている。
▶今から6年前の2017年1月、“放課後“でROKPRESSOの前モデルを試す眞喜志さん。撮影は山田さん。
▮山田さんの今後の展望と若い世代に伝えたいこと
会話の中で山田さんに今後の展望をうかがってみたところ、ここまで育ててもらった沖縄、そして栄町市場への感謝があり、身近な地域にはじまり、沖縄を、日本をコーヒーでもっと元気にしていきたいとおっしゃっていた。
沖縄で生産されるコーヒーをより良くするために貢献したい、
技術や文化を下の世代にも繋いでいきたい、
新しいコーヒーと出会いたい、とやりたいことが満載だ。
最後に、山田さんは若い世代に伝えたい事も語ってくださった。
それは ”早いうちに自分の特性を知る” ということ。
山田さんは、シベリア鉄道でロシア~ヨーロッパを横断するといった活動的な父親やサンフランシスコに住む叔母といった海外が身近な環境から、将来は外交官など海外と関わる仕事がしたいという思いを持ち、大学は法学部を選んだ。
しかし、1年たたずして、この道は違うと感じてしまい、アルバイトに精を出してみるも飲食店のアルバイトでは不器用で皿洗いしかさせてもらえないなど、自分は何をやってもダメだと自暴自棄になってしまった時もあったという。
しかし、それがきっかけとなり、自分の将来と真剣に向き合うことをはじめ、イチローや中田英寿など、当時第一線で活躍していた人や成功している人の本を読み漁った結果、自分の特性を知ることが大事だということに行きついた。
自分の特性は何かという問いに向き合い、何かひとつの物事に没頭して突き詰めていくことが好きで、はまったときの集中力はすごいという自負があった。それに気づいてからは、そんな自分に合う一生やり続けられる仕事に出会いたいとずっと思いながら過ごしてきて、今の仕事に出会えた。
色んなことにチャレンジすることが幸せだと思う人もいれば、人のサポートをすることに幸せを感じる人もいる。他人の価値観に流されることなく、自分はどういうときが幸せなのか、どうなったら幸せなのか、自分の特性を理解し、自分がこれだと思う道を自信を持って進んで、輝く場所を見つけてほしい。
▮おわりに・・・
優しい雰囲気の山田さんだが語る言葉は終始情熱に溢れ力強さを感じ、貴重な時間を過ごすことができた。
皆さんにも是非COFFEE potohotoに足を運んでいただき、山田さんの情熱溢れるコーヒー談を聞きながら絶品のコーヒーを味わってみてほしい。
COFFEE potohoto
〒902-0067 沖縄県那覇市安里 388―1 栄町市場内
Homepage:http://www.potohoto.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/coffeepotohoto/
Facebook:https://www.facebook.com/coffeepotohoto/
COFFEE potohotoは、1月26日からリニューアルオープン。
16年2ヶ月営業してきた旧店舗から徒歩39歩の距離。
焙煎室と店舗が一緒になった新店舗。これからますます輝く山田さんと店舗が楽しみで仕方ない!
▶写真はオープン前の準備期間に撮影させていただいたもの